FX

※サンプルは劇中劇のみですが、実際の本編には蓮とキョーコも登場します。


『雨のち晴れ』 監督 新開誠士
吉野花梨(ヨシノカリン)/京子
山本怜(ヤマモトレイ)/敦賀蓮
山本慎(ヤマモトシン)/不破尚

■1■
八月上旬、中部国際空港は旅行客の人波で溢れかえっていた。
吹き抜け横にある二階のオープンカフェからその人ごみを眺めながら、吉野花梨はアイスティーを飲んだ。

「もう少しで逢えるね、慎君」

花梨は人ごみを眺めるのを止め、テーブル上のパスケースに視線を移す。
そこには茶髪の少年と黒髪の少女が映った写真が大切そうに収まっている。

『中部国際空港をご利用のお客様にご案内致します。ただ今、保安検査場が大変混み合い誠にご迷惑をお掛けしています。
SKB航空成田便へ搭乗予定のお客様は、出発時刻に間に合わない恐れがございます。通常検査の列ではなく優先列へお並びくださいませ。繰り返します――』

「SKB航空成田行き? 私が搭乗する便じゃない!」

花梨はパスケースを急いでミニトランクのポケットに仕舞い慌てて立ち上がった。あまりに慌てたからか、隣に座っていた電話中のサラリーマンの荷物とぶつかり、自分と相手のミニトランクが明後日の方向に転がった。

「すみません!」
「いえ」
「ごめんなさい、急いでいるんで失礼します!」

花梨は見覚えのあるトランクを確保するともう一つを相手に渡し、一目散に保安検査場に向かった。
優先列へ並び何とか搭乗に間にあった花梨はトランクを頭上のキャビンに入れて窓際の座席に腰掛ける。

(さっきのサラリーマンさん、顔は結構カッコ良かったなぁ。……駄目よ、私には慎君という立派な彼氏が居るんだから!
あ、慎君の写真、トランクのポケットに入れたまま……でも隣に人来ちゃったし、今更出し入れしづらい……諦めよう)

やがて飛行機は離陸し、花梨の思考は山本慎の想い出に飛ぶ。


花梨と慎は高校時代の同級生。花梨は品行方正を絵に描いたような地味で真面目な生徒。
一方の慎は、明るく社交的な性格とその華やいだ雰囲気が相まって学校中の人気者だった。
ある日の放課後、いつものように図書室で自主勉強していた花梨の隣に座った慎が声を掛けてきた。

「いつも思っていたんだけど、吉野さんて自分の受験に関係ない授業でも真面目に受けているよね。
この間倫理の授業で少し居眠りしちゃってさ。もし良かったら見せてくれないかな」
「これでいいなら、構わないけど」
「やっぱり綺麗に纏めてあるね。ちょっと貸してね」

暫くして中身を写し終わった慎からノートが返却される。

「ありがとう。吉野さんって地元のN大を受験するんだよね。これから受験まで半年しかないけど一緒に勉強しようよ」
「え? でも確か慎君はT大受験を目指しているんでしょ?」
「受験科目は殆ど同じだしさ。予備校がある日は無理だけど、何もない日はいいでしょ」
「そんな事突然言われても。今迄あまり話した事無いし……」
「受験先は名古屋と東京で違うけど国立大学を目指す者同士、一人より二人の方が心強いし。だから頑張ろうよ――」

(あの時の慎君の笑顔が可愛くて、つい頷いちゃったのよね)


「慎君、お皿とコップはここに入れとくね」
「悪いな花梨、お前だって地元の方で入学準備が忙しいのに、わざわざ俺の上京準備を手伝って貰っちゃって」
「大丈夫よ。私を慎君のお手伝いに選んでくれて嬉しい!」
「結局俺は国立に落ちたけど、滑り止めの私立に受かって東京に来てさ。
花梨は地元一の国立N大に合格するくらいだから、こっちの大学を受験すればよかったのに」
「うちは東京で下宿出来る程余裕が無いから、いいのよ」
「あんなに一緒に勉強してきた仲なのに、このまま離れるなんて寂しいよな。
だから俺、引越の片付けを花梨に頼んだんだ。少しでも一緒に居たくてさ――」

(そうよ。慎君の周りにはいっぱい女の子がいたのに、あの時私を選んでくれたんだから!)


「それで? 東京に行っちゃった慎君とやらから連絡来た?」
「電話は無いけど、こちらからメールすると返信してくれるの。きっと慣れない東京で忙しいのよ。まだ六月だし」
「その関係で遠距離恋愛っておかしくない? ここN大で友達になって以来、慎君の話を散々聞かされているけど、私にはあんたが騙されているとしか考えられないんだけど?――」

(そんな事無いわよ。最近メールの返信が遅かったり、文面も素っ気なかったりするけど、きっと照れ隠しよ)


想い出を振り返っている内に飛行機は成田空港に到着した。
彼に近づいた喜びに浸りながら携帯の電源を入れ、慎に電話を掛けた。コール音が十回を数える頃、やっと通話が通じる。

「もしもし、花梨です」
『どうしたんだよ。いつもメールなのによ』
「慎君、何だか不機嫌だね。久しぶりに声が聴けたのにそんな調子だと、折角東京に来たのに気分落ち込んじゃう」
『大学が夏休みに入ったから東京観光に来たのか?』
「観光じゃないよ。慎君に逢おうと思って……明日帰るんだけど今日と明日は逢える?」
『来る時は予め連絡を入れろって言っておいただろ! 今日も明日もバイトで忙しいな。予定つかねぇ。切るぞ。じゃあな』
「……何よ。吃驚させようと思って……連絡しなかったのに」

 もしかしたら逢いに来てくれるかもしれない、そんな一縷の望みをかけて宿泊予定のホテル名をメールで慎に送る。

「空はこんなに明るいのにな……私の心は晴れない……な」

見上げた空は何処までも青く澄んで、夏の暑さを運んでいた。


夕刻、花梨の姿はホテルのロビーにあった。チェックインを済ませ、室内に入ってベッドに腰掛ける。
ふと出発前に写真をトランクのポケットに入れた事を思い出しポケットを探るが、掌にパスケースの感覚がしない。

「やだっ! 失くしちゃった? ……あれ、鍵が掛かってる?」

自分のトランクに錠を付けた覚えはない。
よく見てみると、トランクのデザインは同じ物なのに見覚えのないネームタグが持ち手の部分に付いている。

恐る恐る見ると『株式会社山恒屋 経営企画部 山本怜』と電話番号が書いてある名刺が入っていた。
山恒屋といえば地元名古屋に本社があり全国展開している大きな百貨店だ。

「もしかして、カフェでぶつかった時に荷物を取り違えた? この携帯番号に電話しなきゃ! 困っているわよね?」

携帯を取り出して番号を入力すると、すぐに相手が出た。

「もしもし、山本さん……ですか?」




劇中劇「雨のち晴れ」(映画シナリオ)内のお話で尚キョ状態ぽいところから始まりますが、最終的には蓮キョです! 当然です!!
蓮キョ共演恋愛映画の撮影風景が途中登場します。 後書きと言う名の執筆裏事情はHPにて掲載
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* 2010.11.22 Evany * 背景素材 NEO HIMEISM 様 *

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